獅子に戯れる兎のように
「あの…。今高校生が入店しましたが、居酒屋でのバイトは学校で禁止されているはずです」

「バイト?高校生?」

「はい。茶髪で不良の……」

「不良……」

 大将と女将は顔を見合せた。大将はブスッと口を歪ませ、女将はケラケラと笑った。

「うちの悪ガキですか?」

「うちの……悪ガキ!?」

「うちの問題児。あなた、学校の先生ですか?それとも補導員?まさか、婦人警察官ですか?顔を怪我してたようだし、また何かやらかしたんですかね?……まったく困ったもんだ。警察沙汰だけは勘弁してもらえませんか」

 彼はこの店の息子!?

 とんだ早とちりだ。

「申し訳ありません。私は学校の教師でも補導員でもありません。家庭教師を依頼されたお宅を探していて、偶然高校生が居酒屋に入るところを見かけ、差し出がましいことを……。ごめんなさい」

「いえ、いいんですよ。あの風貌ですから、勘違いして当然だよ。ところで家庭教師って、もしかして日向《ひなた》かい?」

「はい、日向さんの家をご存知ですか?」

「ご存知もなんも、うちが日向ですよ。よかった。今度は女の先生なんですね。陽《あきら》はすぐに男の先生と喧嘩しちまうから、女の先生の方がいいと思ったんだ。なぁ母ちゃん」

 大将の言葉に、思わず固まる。

 彼が……私の新しい生徒!?

 ――日向陽《ひなたあきら》!?
< 7 / 216 >

この作品をシェア

pagetop