獅子に戯れる兎のように
 ジーンズでもいいと言ったくせに、デコルテがバッチリ開いたセクシーな黒いドレス。胸の谷間がチラチラし、目のやり場に困る。ベルトとハイヒールは赤、ボディラインが強調され、陽乃でなければ着こなせないデザインとカラー。

 私や美空が着たら仮装パーティの魔女だ。

 陽乃の美しい容姿に、ホテルを訪れた客が振り返る。

 強烈なインパクトを放つ陽乃から少し離れた場所に、チョコンと留空が座っていた。

 同色のワンピースでも、留空が着ていると冠婚葬祭の礼服にしか見えない。

「ごめん、待った?」

 陽乃は私と美空の服装をマジマジと見た。

「本当にジーンズだったの?まぁいいわ。行こう」

『まぁいいわ』って、なんか感じ悪いな。

「事前に説明してくれないからだよ」

「だって事前に話したら、二人とも来なかったでしょう」

 確かに。
 絶対に、断っていただろう。

「それで、誰のバースデーパーティー?」

「主役は医師よ。だからパーティーには医師がウジャウジャ、大企業の御曹司もいるわ。病院関係者だけでは地味だから、華を添えて欲しいって頼まれたの」

「華が欲しいなら、コンパニオン雇えばいいのに」

「文句はいいから付いてきなさい。セレブを目の保養に、豪華なディナーと美味しいワインがタダで飲めるのよ。サイコーでしょう。このホテル、ドレスのレンタルあるから適当に選んで」

「やだよ、レンタルなんていらない」

「ドレスもヘアメイクも無料だから安心して。ほら、文句言ってないで付いて来なさい」

 私達は陽乃のあとを渋々付いて行く。

 ホテルのレンタルドレス。ホテルの会場を利用する客には無料レンタルサービスが付いている。

 何処の業界も商戦に悪戦苦闘。
 集客に必死だ。

 私は陽乃の見立てで、淡いピンクのワンピースを選ぶ。デコルテのレース、スカート丈は少し短めのフレア、自分では決して選ばないデザイン。

 美空は陽乃のアドバイスを無視し、自分で選んだブルーのツーピース。上半身にはたっぷりのドレープ、スカートはレースを施したタイトなシルエット。

 私服を着ていた留空も、レンタルショップの店員に勧められ白いワンピースを選んだ。デコルテ開きでキャミソール型。チュチュの裾。デコルテは見えるが陽乃のように胸の谷間は見えず、まるでお伽の国のお姫様のよう。
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