獅子に戯れる兎のように
 ヘアメイクも施され、普段の私達とは異なる装いに。

 一番劇的な変身を遂げたのは、地味な留空だった。眼鏡を外した留空は二重でくりっとした可愛い目をしていた。

 まるで灰だらけのシンデレラが、魔法をかけられたみたいに大変身している。

「驚いたわ。ガチョウが白鳥になっちゃった」

 私達が口に出来ないことを、陽乃はズバッと言ってのける。

「留空がこんなに可愛いなんて、知らなかった。月と鼈《すっぽん》、まるで別人だね」

 美空までズバズバと……。
 ていうか、そんな喩え友達でもNGでしょう。

 こんな言われ方をされると、私なら傷付くよ。

 でも留空は、鏡に映る自分を見つめ目を見開いたまま身動ぎひとつしない。

 完全にフリーズしている。

「これが……私?」

 ポカンと口を開けたまま、鏡の中の自分を見つめた。

「留空、眼鏡なんて卒業して、明日からコンタクトにしなよ。きっと職場の男性社員も驚くよ」

「……恥ずかしい」

「なに言ってるの。もっと自分を磨きしなさい。結婚するなら、血統書付きのイヌ科でしょ。高貴な血筋は飼い主を裏切らない。さぁ、みんな行くわよ」

 血統書付きのイヌ科だなんて。
 陽乃らしい喩え。 

 陽乃はモデルのように凛と背筋を伸ばし、コツコツとハイヒールを鳴らす。

 美空は渋々陽乃の後ろを歩き、私と留空は並んで一番後ろを歩いた。

 少し遅れてパーティー会場に入ると、男性の視線が一斉にこちらに向いた。

 このパーティーの主役らしき男性が、陽乃に近付く。

「陽乃さん、よく来てくれましたね。お待ちしていました」

 彼はスーツのポケットから名刺を取り出し、私達全員に一枚ずつ差し出した。

「私は南原総合病院、内科部長の南原総士郎《なんばらそうしろう》と申します」

 南原総合病院?
 都内でも大学病院と並ぶ規模の大病院だ。
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