獅子に戯れる兎のように
 留空の天然振りに、私と美空は顔を見合せ爆笑した。

「待ってるから、早く着替えなさい。自ら魔法を解くなんて、欲のないシンデレラだね」

 ゲラゲラと笑ってる美空に背を向け、留空はドレスを脱ぎ捨て、髪型も元に戻し眼鏡を掛ける。直ぐさま地味子に逆戻りだ。

「あーあ、元に戻っちゃった。留空コンタクトにしなよ。私達付き合うから、買いな」

「いいよ、毎朝面倒臭いから。眼鏡で十分」

「宝の持ち腐れって、留空のこというんだね。カビ生えちゃうよ」

「宝?餅腐れって?お餅がカビるってこと?カビた餅が宝なの?」

「もういいや」

 美空は笑いながら、留空の背中をポンと叩いた。留空は相変わらず天然だ。

 私達は3人でマリオリッチを出て、新宿の街をブラブラとウィンドーショッピングする。

 ドレスを身に纏い美しく着飾り、さっきまでセルブな男性にちやほやされていたとは思えない。

 地味な私達に、もはや声を掛ける者などいない。

 バッグの中で携帯電話が鳴る。
 着信を見ると陽乃。

「うわ、きっとカンカンだよ」

「ほっとけば?これ以上我が儘なお姫様に付き合ってらんないよ」

「そうだね」

 今電話に出ると、陽乃はパーティー会場に戻って来いと言いかねない。

 電話をスルーすることに決め、バッグの中にあった名刺を傍にあったゴミ箱に捨てた。

 きっともう逢うこともないだろう。

 チャンスを逃したと陽乃は言うかもしれない。でも当分恋はいらない。

 紫陽花の葉に隠れるかたつむりのように、臆病な私。

 太陽のように眩い光を放つ男性とは、住む世界が違う。
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