獅子に戯れる兎のように
 午後九時過ぎ、パーティーであれだけ飲食したのに、私達は三人で行き付けのラーメン屋トンちゃんに行く。

 ストレスが溜まるとここに集まり、仕事や上司の愚痴を発散させる。

 赤い暖簾を潜ると、熊のぬいぐるみのような店主が笑顔で迎えてくれる。

「へいらっしゃい。いつもの個室空いてるよ」

「おじさん、ありがとう。豚骨ラーメン三つね」

 美空は勝手にオーダーをすませる。今日は醤油ラーメンの気分だったが仕方ない。

「あいよ、ギョーザと唐揚げはいいのかい?」

「今日はいいや。ちょっと摘まみ食いしてきたから。締めはやっぱりトンちゃんの豚骨ラーメンでしょ」

「嬉しいこと言ってくれるね。ギョーザサービスしちゃうよ。座ってて」

「ありがとう」

 美空はちゃっかりギョーザを手に入れた。

 個室でいつものように女子トーク。美空は仕事の話や営業部長の悪口を一気に捲し立てる。

 留空は相変わらずマイペースで、その話を聞きながら豚骨ラーメンを黙々と啜った。

「ていうか、留空まだパーティーでもらった名刺持ってるの?」

「……うん、あるよ」

 留空は鞄をごそごそと漁り、名刺をズラリと並べた。

「一、二、三……」

 美空はトランプのようにテーブルに名刺を並べていく。

「全部で十五枚か。留空凄いね。で、どれかヒットしたの?」

「こほこほ」

 ラーメンを啜っていた留空は、美空の質問に突然噎せた。どうやらヒットした相手はいたようだ。
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