獅子に戯れる兎のように
 あれから……?

 日向は公園で出会ったことに疑念を抱いてるの?

 もしかして、私があの時の家庭教師だと気付いてるの?

「あれから花菜菱デパートの同期とランチに」

「ランチ?公園でサンドイッチを食べたのに?」

「えっと、ランチではなくスイーツバイキングだよ」

 セレブな男性は、見方によっては甘い誘惑。

「スイーツバイキング?雨宮さん甘いもの好きなんですか?」

「まぁね。女子はみんな好きだから。甘いものを食べるとストレス発散になるし」

「そうですか。男が酒を飲んでストレス発散させるのと同じかな。今日は昔の仲間との楽しいお酒でした。俺の友達ガラ悪くてすみません」

「……休日に誰と逢っていても、私には関係ないから」

「ですよね。俺なんて眼中にないって感じですもんね」

 そんなことはない。
 過去が知れはしないかと、今だってヒヤヒヤしてる。

「あっ、駅に着きましたよ」

「いけない。降りないと」

 私達は慌てて電車から降りる。

 寮までの道のりを二人で肩を並べて歩く。沈黙が続き、息苦しくなる。

 困った……。
 会話が見つからない。

「日向さん彼女いるんだね」

「彼女ですか?いませんよ」

「だって女子とカラオケ……」

 日向はクスリと笑う。

「やっぱり全部聞いていたんですね。カラオケに女子もいましたけど、高校時代の友達です」

「そう」

「学生の頃の友達っていいですよね。何も考えてなかったころに戻れる。けど辛いことも思い出す」

「辛いこと?」

「何でもありません。明日から宜しくお願いします。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 寮に着いた私達は、別々のドアから入る。壁を挟んだ男子寮と女子寮の個室。

 この壁の向こうで、日向が同じように階段を上っていると思うと不思議だ。
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