獅子に戯れる兎のように
 ――『優等生ぶってると、本当の恋なんて出来ない』

 陽乃の言葉に、小暮との苦い経験を思い出し反論出来なかった。

 心の中で『私は優等生じゃない、劣等生だよ』と呟く。

「もうやめよう、折角の休憩時間が台無しだよ」

 美空が食堂の入口に視線を向ける。賑やかに談笑しながら入って来たのは総務部の男性社員達。

 その中に日向の姿もあった。

 男性社員はトレイ片手に、通路を挟み私達の斜め前のテーブルに座る。

「柚葉、木崎さんとの交際順調で良かったね」

 陽乃が突然大声で話し掛けた。
 男性社員がチラッとこちらを見た。勿論日向も……。

「陽乃、やめてよ」

「ごめんなさい。食堂で話すことじゃなかったね」

 あえて言葉を濁す陽乃。
 どうすれば男の興味をそそるのか熟知している。

「今日さ、仕事終わったら四人で飲みに行かない?」

「いいね、けど本当に四人なの?女子会なら行くけど、男はいらないから」

 美空の言葉に陽乃は苦笑する。

「私、今日夕食いるって寮のスケジュール表にチェックしてるから止めとく」

「そんなの電話でキャンセルすればいいでしょう。柚葉が来ないと話にならないの……。あっ……」

 陽乃は『シマッタ』って顔をして、口元を隠した。

「やっぱり何か企んでる。白状しなさいよ」

「わかったわ、白状するから今夜は付き合って。木崎さんに頼まれたの」

「そんなことだろうと思った」

 美空は呆れ顔で椅子から立ち上がった。
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