獅子に戯れる兎のように
 ◇

 ―銀座NATASHA(ナターシャ)―

 高級イタリアンのお店。予約しないと入店出来ないほどだ。

「NATASHAの予約よく取れたね」

「当日予約なんて取れないわよ。NATASHAの料理長と木崎さんがお友達なの。だから特別に料理長にご招待してもらったみたいよ」

「そうなんだ。多方面で親交があるのね」

「それだけ人望があるってことじゃない?」

 ボーイに案内されテーブル席に行くと、そこには南原と木崎が待っていた。

「雨宮さんよく来て下さいました。てっきり木崎が振られると思ってたのに、さすが陽乃さんですね。ご尽力ありがとうございます」

 南原は笑みを浮かべ、私に握手を求めた。

「……ご招待ありがとうございます」

 いきなり否定は出来ず、思わず営業用スマイルをする。

「それでは陽乃さん、私達は行きましょうか」

「えっ?」

 行くって……?

 陽乃は南原に笑顔を向ける。

「都内のホテルで有名デザイナーのファッションショーがあるの。私は南原さんとそちらに行くわね」

 また陽乃にしてやられた。私も学習能力ないな。

「あとはお二人で。じゃあね、柚葉」

「じゃあな、木崎。頑張れよ。陽乃さん行きましょうか」

「はい」

 南原は陽乃をエスコートし、お店を出る。取り残された私はどうしたらいいのかわからず困り果てる。

「取り敢えず座りませんか?」

 木崎の一言で、ボーイは然り気なく私の椅子を引き、戸惑いながらも着席する。

「……ありがとうございます」

 こんなこと、今までされたこともない。

 上品な店の雰囲気と、高級なブランド服に身を包んだセレブな客層に少し緊張している。
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