獅子に戯れる兎のように
「困った顔してる。迷惑だったかな?」

「……いえ、陽乃も同席すると思っていたので、戸惑っているだけです」

 木崎はクスリと笑う。
 大人だな。

「雨宮さんは正直な人ですね。そんなところも魅力的です。こんなやり方をして、本当にすみませんでした。正々堂々と電話すれば良かったのですが、それではきっと断られると思って」

 直接誘われたら、確かに断ってる。

「あの……。私なんか、どうして……。パーティー会場には綺麗な女性が沢山いらしたのに」

「雨宮さんもその中の一人ですよ。あなたの美しさに私は一目で心を奪われた。取り敢えず再会を乾杯しませんか」

 キザなセリフに照れ笑いしながらも、木崎がいうと嫌みを感じないから不思議だ。

 同じセリフを南原に言われたら、きっと嫌気がさすだろう。女慣れしてるというか、遊びを心得てる気がするから。

 陽乃みたいに、男性を上手く手玉に取れる女性でないと、南原と付き合うのはきっと難しい。

 グラスに注がれたワイン。
 木崎はグラスを持ち、口元に笑みを浮かべた。

「乾杯」

「……乾杯」

 私、一体何に乾杯してるんだろう。

 もう二度と逢わないと、木崎に告げに来たのに。

「このお店でシェフお勧めのコース料理をオーダーしています」

「……はい。あの……木崎さん」

 言葉を発しかけたが、木崎に封じられる。

「断りなら、食事のあとにしませんか?シェフが用意してくれた料理を、一緒に堪能しましょう」

 木崎は私の気持ちに気付いてる。
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