獅子に戯れる兎のように
「……ぇっ?」

 ふわふわと浮かぶドーナツの形をした煙草の煙。

 なにやってるの?

 思わずバルコニーの窓を開けた。

「やっぱり帰宅されていたんですね」

 しまった……。
 子供染みた策略に、まんまと嵌まったようだ。

「……こんばんは」

 バルコニー越しに、日向が少し身を乗り出す。

「こんばんは。ていうか、帰宅されてると思わなかったな。てっきり二人で……」

「二人でって、なによ。変な想像しないで」

 思わず向きになる私。
 
「すみません。てっきり二人で飲みに行かれたのかと」

 飲みに?
 私、なに勘違いしてるの。

「食事をご馳走になり、送っていただいただけ。明日も仕事だし、飲みになんて行かないわ」

「そうですか。雨宮さんの恋人がどんな方なのか、とても興味深かったけど、あんなに素敵な方だとは思わなかった」

 恋人だなんて……。
 日向は完全に誤解してる。

「彼は三十四歳だから、私よりも落ち着いてるの」

「俺より十歳も年上なんだ。どうりで大人だと思った。経済力もハンパないですね」

 経済力……か。
 確かに医師だし、個人病院の跡取りだ。

 陽乃や日向のいうとおり、結婚相手には申し分のない相手。

「いつご結婚されるんですか?」

「結婚!?」

 思わず突拍子もない声を出してしまった。

「すみません、唐突過ぎたかな」

「結婚……は、まだ当分先だよ」

「そうですか。とてもお似合いだったので、結婚間近なのかと。婚約は?」
< 97 / 216 >

この作品をシェア

pagetop