小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 線が伸びるときに体が激しく痛むが、それ以外で日常生活に不便はなく、不安にさせるだけの内容をリンネや母上に教える気にはならなかった。死ぬのが自分だけなら、被害はそれだけだ。

 王家の後継ぎは、俺がいなければ傍系に移るだけ。そしてその場合の王位継承候補者はクロードであり、人柄からいっても能力からいっても、何の問題もない。

 自分としては、リンネには内緒にしたまま、最期のときを迎えるつもりだった。

「……リンネにその情報を教えたのは誰なんだろうな」

 ずっと疑問に思っていたことを口に出す。

「味方であればいいけどね。リンネが騙されていたら困るよ」

 クロードが心配そうに言う。だが、それに関しては、自分でも意外なほど安心していた。

「ああ見えてリンネは疑り深いぞ。学内の友人だってほとんどいなさそうだった。そのリンネが信用すると言い切っているんだから大丈夫なんじゃないか?」

 単純で感情が表に出るリンネが、上手に嘘をつくことなど想像できない。リンネが信用するというくらいなら、そいつはいい奴なのだろうと思う。

 だが、クロードは納得しきれていないようだ。

「リンネがどれだけ信じていたとしても、国にとって有益な人物かどうかは別問題だ。魔法陣の内容を知っているならば、君の伯母上……ジェナ様の関係者っていう線が濃厚だろう。そうでなかったとしても、リトルウィックの関係者ではあるよ。野放しにしておくわけにいかない」

「……なら、調べてくれ」

 渋々そう告げると、クロードは不満そうに口を真一文字に結んだ。いつも笑顔の彼がこういう表情をするのは珍しい。
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