小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「……なんか怒っているのか?」

「なぜ君がそんなに落ち着いているのか、理解に苦しむよ、レオ」

「そっちこそ、なぜそんなに熱くなってるんだよ、クロード」

「君が死ぬかもしれないと知って、平気でいられるわけがないだろう?」

 軽く机をたたく。
 いつも穏やかで笑顔を絶やさないクロードが、感情をあらわにするのが珍しかった。

「俺が死んだら、次期王はおそらくクロードだ。それを喜ぶ気にはならないか?」

 クロードは、俺のはとこにあたる。現状では、王位継承第三位にあたるが、第二位であるクロードの父親は、年齢から順当にいけば、父上よりも先に死ぬ。つまり、事実上の王位継承第二位だ。

「怒るよ、レオ」

「もう怒ってるじゃないか」

「僕は、君が諦めているのが気に入らないんだよ」

「は?」

 諦めてなんかいない……と思っていた。ただ受け入れていただけだ。呪いは消せない、ならば受け入れるのが一番傷つかない。それが誰も傷つけないと、そう思っていた。
 呆けた俺にため息を吹きかけて、クロードは立ち上がった。

「僕は君を生かすために九年費やしてきたんだ。熱くなって当然だろう。魔法陣が完成するまでに、まだ時間はある。やれることは必ずあるはずだ。それに、リンネのことをどうするつもりだよ。あの子を未亡人にする気じゃないだろうね」

「まだ結婚していないだろうが」

「婚約者にまでなれば同じようなものだよ」

「あいつが俺と婚約したのは、……ただの同情だ」
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