小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 本当は、学園には戻らず、放課後をリンネと走り回って過ごしたかった。復学を受け入れたのは、あまりにリンネがしつこかったのと、婚約を了承させるのに、都合が良かったからにすぎない。

 リンネが側にいて笑ってくれるだけで満足していたはずなのに、死ぬかもと思えば少しばかり欲が出た。

 リンネに俺の痕跡を刻みたかった。彼女にとって何でもない人間のまま命を終えたくない。たとえ短い間でもいい。彼女の伴侶、それが叶わないのならば、婚約者でもいい。
 彼女の人生に、自分の名を残したかった。

 リンネに言うには、あまりにも独りよがりで情けない願いだ。だから、〝復学のための女除け〟という建前は、俺にとって都合が良かった。

 神妙に告げると、クロードはぱたんと魔導書を閉じ、その太い本で俺の頭を叩いた。

「痛いじゃないか」

「馬鹿なことばかり言うからだよ。僕は諦めないよ。君を死なせない方法があるはずなんだ。そのためにずっと研究しているんだからね。見くびらないで欲しい」

 目の前で、諦めているのはお前だけだと突き付けられ、苦しくなる。死が分かっているならば、諦めたほうが楽だ。そのほうが、余計な希望を抱かなくて済む。

 そう思うのに、クロードはそんな俺を馬鹿だという。

「……俺は」

「リンネを泣かせたら承知しないよ、レオ。君はもっと欲張りにならないといけない」

 そう言うと、クロードは、これ以上は聞かないとばかりに部屋を出ていった。
 俺は、胸のざわつきを抑えられないまま、目を伏せた。
< 103 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop