小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「では王子様をお呼びしてまいります」
侍女はにっこり笑うと出ていった……が、待って、今、聞き捨てならないひと言が聞こえたような。
すぐに中に入ってくるのは、先ほどと同じクロード、少年、父親の三人だ。
どれが王子? クロード?
「改めて、体はどうだ? リンネ。いつの間にか広間からいなくなっているから慌てたぞ」
「え? えっと」
「覚えてないのか? 今日は私と王家のお茶会にお呼ばれしたんだぞ」
その言葉に、またぱっと記憶が浮かび上がった。
そうだ。王子様の回復を祝うために、王城に勤める貴族の年齢の近い子供たちが集められたんだっけ。ん? 回復? なんか病気だったんだっけ?
私は改めて、クロードと少年を見る。ニコニコ笑顔のクロードは、社交性に全く問題がなさそうだし、とてもリンネと同い年には見えない。ということは当然、少年の方が王子様というわけで。
私……さっき王子様の服をひっぺがしたってこと? いやだって、あんなパジャマみたいな服で王子だなんて思わないじゃん。
青くなった私に、お父様ことエバンズ伯爵は「思い出したか?」と肩を叩く。あまりの動揺に言葉が出ず、コクコクと頷くことで意思を示した。
「では王子殿下に失礼を謝りなさい」
そう言われて、一応頭を下げたが、彼はちらりと見ただけですぐにぷいと向こうを向いてしまった。
「こら、レオ。……失礼しました、リンネ嬢。たしかにあなたの行為は見る人にとっては不敬でしょう。ですが私は、感心しているんです。レオは人間嫌いでしてね。彼から服を奪い取るのは至難の業だったでしょう」
いや、それほどでもない。有無を言う暇は与えなかったし。そこまで抵抗されたわけじゃないし。