小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「ローレンは彼を助けるためにキスをするの。そこに真実の愛が生まれ、呪いが解けるのよ」

「……なんか、そのあたり曖昧だね。結局ローレンは何をしたの? キスだけで解けるの?」

「うーん。そうなんじゃないかな。ふたりがキスをしたら、その部分がぱあっと明るくなったんだよ」

 どうやら描写としてはかなりあいまいだったらしい。そして琉菜的には、一番の盛り上がりだったので、手法どうこうよりもレオが救われたことが重要であって、その後のふたりの恋愛ターンをむさぼるように読んだため、あまり覚えていないらしい。

「一番肝心なとこじゃん……」

「大丈夫だよ。巫女姫の血が入っている私がいれば、なんとかなる。だから、リンネの役目は、私をいじめて、レオ様に嫌われて、婚約破棄されること」

「いじめって言われても」

 どうすればいいのか? 悪役令嬢っぽいセリフで虐げればいいのか。でもそんなことをしてレオがローレンに同情するかな。

「駄目だ。いじめってどうすればいいのか思いつかない」

「じゃあシナリオを考えてあげるから。演技して」

「演技……ねぇ」

 非常に不安しかない。演劇なんて、小学六年生のときのケヤキの役が最後だ。セリフなど一度も話したことが無い。

「大丈夫、リンネでもできるようなネタ考えるから」

 琉菜は二次創作もするオタクだったな、そういえば。もう任せよう。

 なにがどうなっても、レオが死ななければいいのだ。私の評判などすでにないも同然。いつ地に落ちてもおかしくないのだから、気にしないことにしよう。

 王太子になにかあれば、国の安泰すら危ういのだ。ローレンとレオを引き合わせるのは、国民の義務ともいえるだろう。
 頑張れ、私。

 そう意気込んだものの、なぜだか胸に暗い影が落ちたようにスッキリしない。

「いやいや、レオを守るためだよ?」

 自らにそう言い聞かせ、私はようやく迷いを振りきった。

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