小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「おまえ、そこすりむいてるぞ?」

「え? どこ?」

「ほら、引っかけてる」

 たしかに腕に枝をひっかけたような傷ができているけど、大したことはない。少なくとも、膝をすりむいたと騒いでいるローレンに比べれば。

 レオがローレンを完全にシカトしているので、仕方なく私が話しかける。

「レオ、私より重症な人がいるじゃん。……ローレン様、大丈夫ですか?」

「リンネ様。……こちらこそ、ぶつかってしまって申し訳ありません」

「こちらこそ、足を引っかけてしまって」

 なんの茶番だ。言ってて虚しくなってきた。
 だけど、私が介入しないと、レオはローレンと話をする気さえなさそうだ。なんとかして、ふたりを歩み寄らせなければいけない。

「まあ、ローレン様大変。膝にお怪我を。レオ、申し訳ないけれど、彼女を医務室まで運んでくれない?」

「俺が?」

「まあ! レオ様のお手を煩わせるなんてそんな……」

 右手を頬にあて遠慮したそぶりをしているが、私の足をバシバシ叩いている左手が、『よくやった、リンネ』と告げている。

 レオは眉を寄せたままあたりを見回し、「そこの!」と大きな声を出す。
 通りすがりの男子生徒は、王太子のお呼びと見て、すごい勢いで駆け寄ってきた。

「どうされました」

「この女生徒が怪我をしたらしいのだ。悪いが医務室まで運んでやってはもらえないだろうか」

「はい。それはもちろん」

 顔をひきつらせたローレンが、男子生徒に抱きかかえられる。
 レオは、満足そうな顔をして、「これで心配はないな、行くぞ、リンネ」と私の腕を引っ張っていくじゃないか。

「ちょ、リンネ様ぁ?」

 裏切り者~という声が聞こえてくるようだ。
 いや、でも、私が裏切ったわけじゃないじゃん?
 他人に興味のないレオには、向かない作戦だっただけだよ。
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