小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 次の日、私はレオを校舎裏に呼び出した。授業が終わり、みなそれぞれに家路につくので、学園は人けがない。

「なんだ、リンネ。改まって」

「うん。あのね、レオ」

 他の女性がいないからか、レオはどこか機嫌がよさそうだ。
 だが今は、その機嫌の良さがつらい。何せ私は今から、婚約破棄を申し出ようとしているのだから。

 『婚約破棄してほしい』なんてそんなに長い言葉じゃない。一気にするっと言えばいい。
 ええい、ままよ!

 勢いづけようと息を吸った瞬間、先にレオの声が降ってきた。

「そういえば、おまえに渡すものがあったんだ」

「え?」

「ほら」

 シャランという音とともに、目の前に差し出されたのは、銀色の鎖にパールと紫水晶が鈴なりについているネックレスだ。色のせいもあって、ブドウみたいに見える。

「……かわいい」

 自然に口をついて出たのはそんな言葉だ。
 レオと出会ってから八年、食べものをくれることはあっても、こんなかわいらしいものを選んでくれたことはなかった。
 それにしても、別に誕生日でも何の記念日でもないのにどういうことだ。

「でもどうして?」

 見上げると、レオはふいとそっぽを向いた。でも頬が染まっているから、照れているんだなってことは分かる。

「……好きだと言っただろう」

「なにが? ブドウ?」

「だからお前はどうしてそう食い気ばかりなんだ」

「いや、だって……」

 ブドウの形してるじゃない。

「そうじゃなくて、綺麗になるのはうれしいって、言っただろ?」

 それは、婚約のお披露目の日のことだ。普段しない化粧に喜んだ私が言った軽いひと言。レオはそれを覚えていてくれたのか。

「婚約したというのに、記念のプレゼントも渡していなかったと思ってな」

 ごにょごにょと言いにくそうにしながらも、レオはそれを私に着けてくれようとした。

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