小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 少なくとも、私はレオが助かるためになら、どんなことをしたっていい。

 ピクリ、とレオの頬が引くついた。私はなんとなく傷ついた気分になりながらも続ける。

「……信じなくてもいいけど。レオが助かるためには、レオを本気で愛している人と心を通わせなきゃダメなの。だから私という婚約者はいない方がいいの」

 しばらくの沈黙があった。レオは言葉を探すように、何度か視線をそらし、やがて思い切ったようにこちらを向いた。

「それは、つまり……おまえは俺のことが好きじゃないということだな?」

 レオの返答に、私は呆気に取られて目が点になった。
 なんか、悲しい気分もどこかにいったな。かみ合って無くない? 私は、私がいたらローレンとレオが近づく邪魔になるから、婚約破棄してほしいって言っているのに。

「え……? いやあの、レオ?」

「……分かった。俺から父上と母上には言っておく」

 そのまま、レオは背中を向けてしまう。なにか誤解があるように思うけれど、なんて言えばいいんだ?

「レオ、待っ……」

「悪いが。ちょっとひとりにしてくれ」

 背中を向けたままそんな風に言われて、私はものすごく突き放された気分になった。
 そして、そういえば今まで、彼が話すときにこちらを向いていなかったことなどなかったのだと気づく。不機嫌でも、言葉がきつくても、レオは必ず、私をまっすぐ見ていてくれた。

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