小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 その後、僕はレオに会いに行った。
 彼は不機嫌さを隠すこともなく、僕の顔を見るなり「今日はひとりにしてくれ」と突き飛ばすようにして追い出した。
 だが、僕とて黙ってそれを受け入れる気分ではない。

「レーオ?」

 声に苛立ちを含ませ、ゆっくり名前を呼べば、しばらくしてバツの悪そうな顔でレオが扉を開けた。思わず近衛兵まで吹き出してしまっていて、僕はやっぱり、レオは素直だと改めて思ってしまったのだ。

 室内はカーテンが閉まっていて暗かった。引きこもり時代を思わせる状態にため息をつく。

「聞いてもいいかな。どうして本意でもない婚約解消をしたのかな?」

「……言いたくない」

 拗ねた背中が答える。なんだか今日は、小さな子供の頃のようだ。
 人懐こくてやんちゃだったレオは、時折使用人を困らせて楽しむこともあった。後でその使用人が叱られていたことを知って、でも自分のせいだと言えなくて戸惑っていた背中とよく似ている。

 僕が彼の召使であるならば困ってしまうところだろうが、長年の付き合いの兄貴分としてはこんな時の対応にも困らない。

「レオ、君が言わないならリンネを問い詰めるけどいい?」

「やめろ!」

 案の定、レオは慌てて僕にすがってくる。

「だったら君が説明するんだね。……何があったんだい」

「言ったとおりだ。リンネと婚約を解消する」

「婚約したばかりでなにを言うんだか。本当に解消したらリンネにどんな目が向けられるか分かっているのかな? どんな失態をしでかして、王太子から見限られたかと後ろ指をさされるんだよ?」
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