小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「レオに、婚約破棄してほしいって言ったんだって?」

「……うん。レオから聞いたの?」

「まあね。国王夫妻は今大騒ぎだよ。特に王妃様が。リンネのこと、気に入っているから。レオがガッツリ怒られていたね」

「私から言いだしたんだよ! レオは悪くないから」

「そうだろうね」

 クロードは立ち止まると、私に向かって穏やかに笑う。

「レオと婚約破棄するなら、僕と結婚しようか、リンネ

 一瞬、頭が回らなくなった。なんだか苦しいなって思って、息をしていないことに気づき、慌てて、息を吸い込む。

「クロード? なんの冗談?」

「冗談じゃないよ。僕は前から君のことが好きだし。レオの婚約者だから身を引いていいただけに過ぎない」

「なに言って……」

 私が視線をそらそうとしたら、クロードが手首を掴んだ。息を飲むほど真剣な表情に、いつもの優しい兄のような穏やかさは見あたらない。

「クロード?」

「ここで君を抱き寄せたら、エバンズ夫人は慌てるだろうね」

「は?」

 クロードはちらりと屋敷の二階を見上げる。お母様が上から見ているのを確認しているのだろう。

「説得材料にはなるよ。今、王妃様は君を引き留めるために画策している。エバンズ伯爵も婚約破棄など望んでいないからね。レオと本当に別れたいんなら、王妃様を納得させられるだけの相手が必要だよ。そう、例えば僕とかね」

「離してよ、クロード。クロードだって遊んでいる歳じゃないでしょ? ちゃんと自分のお嫁さん見つけなきゃ……」

「だから言ってるんだって。本気だよ? リンネが望んでくれるなら、君をかっさらう準備はできてるんだ」


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