小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 そう言いながら、クロードの顔が近づいてくる。嘘だ。クロードがそんなこと言うはずがない。だって、クロードは同志だ。一緒にレオを守る仲間で、お兄ちゃんのような存在。だからいつだって安心して、甘えていたのに。

 顔が近づいて、彼の息が頬にかかる。

「ヤダっ」

 咄嗟に私がした行動は、拒絶だった。だって違う。クロードは好きだけど、そうじゃない。そういうんじゃない。

 クロードは予想していたかのように余裕だった。突き飛ばされたというのに、笑顔のまま、ぱっと両手を開いてみせる。まるで、これ以上は何もしないよと証明するように。

「……涙目になっているよ、リンネ」

「だ、だって」

「ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだけど。君があまりにも馬鹿なことをしたからさ」

「馬鹿って、ひどい」

「じゃあ、どうしてレオから身を引いたんだい?」

 クロードの優しい声には、魔力でもあるのかもしれない。私は体の力が抜けてくるような感覚と共に、吐き出した。

「だって、レオに死んでほしくないんだもん! 私じゃ駄目なんだよ。レオの呪いを解けるのは、ローレンだけなんだもん」

 ローレンの名前を出してしまったことに、私はハッとした。クロードは満足げに頷き、「やっぱりそういうこと」と頷く。

「本当なの。理由は言えないけど、ローレンがレオを救ってくれるの。ふたりが互いを思いあったら、呪いが解けるって……」

「リンネには悪いけど、少なくともレオが彼女を想うことはないんじゃないかな。近寄られただけで、気分が悪くて仕方ないそうだよ」

「それは、……もっと時間をかければ」

「そんな時間、あると思う?」

 クロードのその声に、私はハッとした。
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