小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
小説どおりにならない
リンネから、レオ様が婚約破棄したという手紙をもらってから、私は彼を慰めるべく、レオ様を捜して走り回っていた。
けれど、彼の態度はにべもないものだ。近寄れば逃げられるし、腕に触ろうと思ったらすごい形相で避けられる。
おかしいな。こんなの私の推しのレオ様と違う。
最近感じているのは、そんなこと。
小説の中のレオ様は、傷つきやすくて、誰かに心を許すのが怖くて、いつもひとりでいる。だけど、リンネにいじめられたローレンが目の前で泣いたのを見たとき、『君の涙は綺麗だな』と無意識につぶやいてしまったのだ。それにローレンが笑顔で応えたことで、ふたりの間は少しずつ進展するようになる。
……でも、今のレオ様は違う。
私を異物でも見るような目で見るし、リンネ以外には全く興味もないみたい。そんな彼に対して、私自身も冷たい感情が湧いてくる。
結局、今のレオ様には、私も恋などしていないのだ。
「……八つ当たりしちゃったなぁ」
うまくいかないことが、すべてリンネのせいのような気がして、怒鳴ってしまった。リンネは何も悪くないのに。
私が一方的に怒ったとき、リンネはとても傷ついた顔をしていた。そしてほどなく送られてきた婚約破棄を報告する手紙を見て、私の心は罪悪感で波立っている。
私がどれだけ頑張っても、レオ様はきっと、振り向いてくれない。だけど、小説の内容を知っているだけに今さら他にどうしたらいいか分からず、レオ様を追いかけ続けている。
「レオ様」
「うるさいな」
彼は不快そうに眉を寄せ、私の手を振り払う。いつもならそのまま行ってしまうはずだった。なのに今日は、急に胸を押さえ、体のバランスを崩して膝をついた。