小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「レオ様?」

「……っ」

「どうしたんですか? 胸が痛いんですか」

「……触るな!」

 差し伸べた手は、弾かれた。そのすぐ後に、彼は口もとを押さえて、苦しそうに顔をしかめる。顔色は青く、呼吸もだんだん荒くなってくる。

「レオ様、あの」

「君では……駄目だ。誰か、誰でもいいから……男子生徒を呼んできてくれ」

「男性じゃなきゃ駄目なんですか?」

 苦しそうに呼吸しながら、レオ様は小さく頷いた。

……おかしい。小説の中で、レオ様の女性恐怖症は、一過性の精神由来の病気だったはずだ。
だから、私はリンネがなにか勘違いをしているのだと思っていたのに、本当に触れただけで気持ちが悪そう。

 だけど、私には巫女姫の力があるはずだ。その発現方法はよくわからないけれど、小説の中では、レオ様のピンチに力を使えたはずだから、今だって心の底から願えば、少しは改善するはずだ。

 そう思って、彼の胸の前に手を当てる。

「……っ、やめろっつ」

 だけど彼の顔色はどんどん悪くなっていき、痛みをこらえるように苦い顔をし続けている。

「なんで? ……どうしよう」

 私が知っている展開と全然違う。どうやったらレオ様を助けられるか分からない。
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