小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「……壊れないよ。おまえがいるから」

 どこか諦めたような瞳で、優しく、私を見つめる。

「おまえがずっと俺の傍で笑ってくれたし泣いてもくれた。だから、俺は楽しい気持ちも苦しい気持ちも、昇華することができたんだ」

「レオ」

「おまえといると、俺はいつも救われた。元々死ぬ運命だったんだ。死んでもおまえのせいじゃない。もし失敗したとしても……おまえの傍で死ねるんなら俺は構わない」

 嫌だ。死ぬなんて絶対にダメ。

「私は構うよ!」

 私は涙をぐっと拭って、自分の頬を叩いた。

「死なせない。だから、レオももっと生きる気になって。死んでもいいなんて言ったら駄目」

 急に強気になった私に、レオが目を瞠る。

「勝てるって信じないと駄目。大丈夫私とあれだけトレーニングしたんだもん。体力では絶対に負けない自信あるでしょう? ジェナ様になんかレオをあげられない!」

「……まったく、おまえは」

ふっとレオが笑ったかと思うと、
 空いているほうの手が伸び、私の後頭部を掴んで引き寄せる。

「……え?」

 涙で濡れた目に、レオのドアップがうつり、唇に優しく温かいものが触れた。

「愛してる。リンネ」

 そうしてゆっくり、唇は離れた。

 照れたように細められた瞳には、深い愛情が宿っていた。燃え滾っていた石炭を胸のあたりに放り投げられたような気分だ。胸が熱くて苦しい。喉も熱い。彼が優しく触れていく部分がすべて、熱を孕んで私の胸を軋ませる。

「おまえがいてくれて、幸せだった。……ずっとおまえが好きだったんだ」

「レオ……」

しかし、痛みが襲ってきたのか、彼はくぐもった声を漏らし、身を固くした。
 再び線が伸び、魔法陣は完成へと近づいていく。
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