小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「私は、……嫌だよ」
腹が立っているのに、涙があふれそうだ。悔しいし、悲しい。レオが、生きることに執着してくれないことが。
それでも私は、針を刺す手だけは止めなかった。さっきよりはゆっくりだけど、間違えないようにしっかり刺していく。
「嫌……って言っても、仕方ない。そもそも呪いはおまえがかけたわけじゃないし、責任なんて感じなくていいんだ」
「責任とかじゃなくて、ただ嫌なんだよ。自分が役立たずなのが嫌だし、こんな呪いごときでレオを失うのが嫌だ。レオがいなくなったら、私この先、誰と走ればいいの!」
「……リンネ」
「他の誰も、……一緒に走ってなんかくれない。レオだけだもん」
私が救ってくれたとレオは言うけれど、救われていたのは私の方だ。
突然、前世の記憶がよみがえって、パニックになっていた私はおかしな言動もいっぱいした。呆れたり驚いたりしながらも、レオはそれを全部受け止めてくれた。一緒に走ろうって言ったときも、私の気が済むまで付き合ってくれた。
走り終えて空を見上げたあの時間に、どれほど救われていたか。今になって思い知る。
「ひとりになったら走れないよ、レオ。……私にはレオしかいないのに」
自分でも驚くほど、弱気な声がでた。
助けて欲しい。独りぼっちにしないで。
レオを助けようとしている私が、彼に助けを求めるなんてなんかおかしいけれど、私には頼る人がレオしかいない。
「……ひとりは嫌だよ。レオと一緒に居たい」
ひどく甘えた声が出て、私は恥ずかしくなってしまってうつむいた。
「リンネ」