小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

「私は、……嫌だよ」

 腹が立っているのに、涙があふれそうだ。悔しいし、悲しい。レオが、生きることに執着してくれないことが。

 それでも私は、針を刺す手だけは止めなかった。さっきよりはゆっくりだけど、間違えないようにしっかり刺していく。

「嫌……って言っても、仕方ない。そもそも呪いはおまえがかけたわけじゃないし、責任なんて感じなくていいんだ」

「責任とかじゃなくて、ただ嫌なんだよ。自分が役立たずなのが嫌だし、こんな呪いごときでレオを失うのが嫌だ。レオがいなくなったら、私この先、誰と走ればいいの!」

「……リンネ」

「他の誰も、……一緒に走ってなんかくれない。レオだけだもん」

 私が救ってくれたとレオは言うけれど、救われていたのは私の方だ。
 突然、前世の記憶がよみがえって、パニックになっていた私はおかしな言動もいっぱいした。呆れたり驚いたりしながらも、レオはそれを全部受け止めてくれた。一緒に走ろうって言ったときも、私の気が済むまで付き合ってくれた。
 走り終えて空を見上げたあの時間に、どれほど救われていたか。今になって思い知る。

「ひとりになったら走れないよ、レオ。……私にはレオしかいないのに」

 自分でも驚くほど、弱気な声がでた。

 助けて欲しい。独りぼっちにしないで。
 レオを助けようとしている私が、彼に助けを求めるなんてなんかおかしいけれど、私には頼る人がレオしかいない。

「……ひとりは嫌だよ。レオと一緒に居たい」

 ひどく甘えた声が出て、私は恥ずかしくなってしまってうつむいた。

「リンネ」
< 151 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop