小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
  が、いつもの血を吸われるような痛みの後、完成した元の魔法陣は、リンネの書き加えた時戻りの魔法までは作動させなかった。

 心臓の血を一気に吸われたような感覚の後、禍々しい光を放ちながら、魔法陣から悪魔が現れたのだ。

 物語の挿絵にあるような、黒い姿にやたらに細い手足と尖った耳を持ち、黒のフード付きのマントを纏い、鎌を掲げていた。体はそう大きくはないが、纏う気がどす黒く重たいもので、ひどく威圧感があった。そして、あろうことか一番近くにいたリンネめがけて、鎌を振り下ろしたのだ。

「……っ」

「キャハハハハハ」

 目の前で起きたことが、信じられなかった。悪魔はリンネを切り付け、耳障りな不協和音で、高らかと笑う。
 悪魔の笑い声は、俺の神経を逆なでした。例えようのない気持ちの悪さが全身を包み、体中に鳥肌がたつ。情けないことに微動だにできなかった。

 そんな俺の目の前で、リンネは驚愕に目を見開いたまま倒れ込んでくる。それは、伯母の最期の姿とそっくりで、俺の意識はあのときに戻って体が硬直した。

 けれど、触れた体は間違いなくリンネのもので、鼻をくすぐる香りも彼女のものだ。こわばっていた体や、過去に囚われていた意識が、徐々にリンネによって現実に引き戻されていく。

 彼女の胸から噴き出した血はが、俺の胸に落ちていた。すでに俺自身も血が足りず朦朧としていたが、彼女が床に倒れ込まないよう、腕に意識を集中させて抱き留めた。体を密着させると、リンネの血がぬるりと肌の上で滑る。

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