小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 そして、――奇跡が起こったのだ。

 胸に今度は黄色の光が浮かび上がる。それはこちらの視界を奪うほど強くなり、青白い光をかき消して、代わりのように黄色の光が周囲を覆う。

 リンネの血を吸って、時戻りの魔法が発動したのだ。

「ギッ?」

 悪魔が、戸惑ったような声を上げ振り返ったかと思うと、それは頭の先から溶けるように消えていった。胸の魔法陣も描かれたときとは逆順に消えていく。

「……時戻りが発動した」

 呟かれた声はクロードのものだろう。

 俺も信じられず、ただ目の前で起こる奇跡を呆然と見つめていた。

 魔法の進行とともに、体がどんどん楽になっていく。失われた血が体を巡っていく感覚と共に、体に力がみなぎってくる。やがて、腕の中のリンネをしっかりと抱き留められるくらいになり、俺は彼女を横抱きに抱きなおした。リンネは青白い顔のまま、くたりと体を預けてくる。

「リンネ、リンネ!」

 反応はない。まだ脈はあり、死んではいない。だがこのままでは、いつ出血死してもおかしくないだろう。
 俺は彼女を強く抱きしめ、叫んだ。

「誰か、医者を呼べ。リンネを助けるんだ。早く!」

 クロードが立ち上がり、人を呼ぶよう指示を出す。それまで、呆然と事の成り行きを見守っていた周りの人間たちが、我に返ったように動きだした。

< 156 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop