小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「……嘘でしょう?」
震える声が近づいてきた。と思ったら、ローレン嬢がリンネの体にすがってきた。
リンネはピクリと瞼を揺らし、うっすらと目を開けた。
「リンネ? 気づいたのか?」
だが、朦朧としているのだろう。「……琉菜?」と俺の知らない名をつぶやく。
ローレン嬢は、感極まったように泣き出し、ともすれば目を閉じてしまいそうなリンネの頬を軽く叩いた。
「しっかりして、凛音。死んじゃダメ。私、まだ謝ってないし、お礼も言ってない」
「お……れい……?」」
「あのとき、凛音ひとりなら逃げれたのに、私を助けようとしてくれたでしょ? それに今だって、本当なら私がしなきゃいけないはずだったのに、リンネが代わってくれた」
ローレン嬢は必死の形相でリンネに訴える。リンネを挟んでいるとはいえ、俺とローレン嬢も触れるくらいの距離にいる。なのに、いつものような気持ち悪さに襲われないことに、違和感を覚えていた。
「ローレン嬢、あまり興奮しては……」
「レオ様のことも、八つ当たりしてごめん、リンネ。……死なないで。私、リンネがいなくちゃ嫌だぁっ」
ローレン嬢が叫んだ。……その瞬間、彼女の手から白い光が湧き上がる。それは、リンネを包み込むように広がった。
「……これは」
ローレン嬢自身も驚いたようだったが、彼女はキッと顔を引き締めると、さらに力を籠める。
「私が救うのは、レオ様じゃなかったんだ。リンネ、あなたを救う。この物語の、ハッピーエンドのために」
不思議なことに、白い光が強くなるほど、リンネの顔に赤みが戻っていく。
「ローレン、おまえは」
レットラップ子爵が驚いたように後ずさる。説明を求めて見上げる俺とクロードに、子爵は、たどたどしく答えた。
「リトルウィックでは、巫女姫の血筋に稀にあらわれるという覚醒型の力です。……目覚める力は人それぞれなのですが、娘に宿っていたのはおそらく、癒しの力だと思います」