小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
『レオは? 走るの楽しい?』

『俺か?』

 レオは少し考えて、ふっと目をそらした。

『疲れるかな。だが、まあ、楽しい。おまえと走るのは』

 少し照れたその顔は、なかなかにかわいくて格好良くて。

『うん!』

 私は幸せだった。レオと一緒に走っていたら、それだけで幸せだったんだ。


 視界が一瞬暗くなり、景色が変わる。今度は真っ白な空間だ。レオが前を走っている。
 追いかけようと思うのに、なぜか足が動かない。どうしてだろう。いやだ、私はレオと走りたいのに。
 そういえば、前もそんなこと思ったな。レオの足がいつの間にか私よりも早くなって、手加減されているなと感じたころ。

 呼べばきっと、レオは止まってくれるだろう。そして待ってくれる。
 でも待ってほしいわけじゃなかったから、私は必死で足を動かした。

 一緒に走りたい。全速力で走れる相手と一緒に居たい。でないと走り終えた後の爽快感など味わえない。

 立ち止まってちゃダメなんだ。なにがなんでも、この足を動かさなきゃ……!



「……えいやぁっ」

 掛け声とともに、なぜが動いたのは上半身だった。
 あたりを見ればそこはベッドの上。レオとクロードとローレンが同じ室内にいて、いきなり起き上がった私を驚いた顔で見ている。
 と思った途端に、胸のあたりがすっごい痛い。

「いたたたたー!」

「馬鹿、いきなり起き上がるやつがあるか!」

 レオに、力ずくでベッドに戻される。……って、レオ?
 思い切り腕を握りしめると「いてっ」と顔を歪められる。

「レオ、生きてるの?」

「……おまえのおかげでな」

 レオが緩く笑う。紫水晶のような瞳が、柔らかく光を放った。

「良かった。良かったぁ……!」

 ホッとしたのと同時に、体から力が抜けていく。体をベッドに預けると、レオが枕の位置を調節してくれた。

「良くないんだよ。おまえのほうが傷を作って……」

「え?」

 指を差されたのは胸のあたりだ。夜着の下に包帯が巻かれているのが分かる。
 そこで、振り下ろされた鎌を思い出して、背筋がゾッとした。
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