小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 ローレンが落ち着いたところで、今度はレオのことが気になる。

「ところで本当にレオの魔法陣は消えたの」

「ああ、きれいさっぱり、腕の呪文まで消えた」

「本当? 見せてよ」

 私の発言に、周りが固まる。あれ、なにかまずいこと言ったかな。

「いや、ちょっとここでは」

「なんで。脱がないなら脱がすよ」

「だからおまえはもう少し恥じらいを持て!」

 レオが真っ赤になって言ったときにはすでに、私はレオの上着に手をかけていた。今は痛みで素早く動けないから、逃げようと思えば逃げられるはずなのに、レオは観念したのかじっとしている。

「きゃー、レオ様の裸!」

 後ろで盛り上がっているのがローレンで、クロードは呆れたように黙って見ている。
 そして私は今頃になって、令嬢が王子の服を脱がすのは普通有り得ないのだったと気づいた。……まあいいや。今更でしょう。

 はだけたシャツの中に、レオの隆起した筋肉が見える。だけどそれだけで、赤黒い呪文も、禍々しい魔法陣もすっかり消えている。

「……本当だ。すっかり綺麗になっている。良かった……」

 ホッとしたとたん、妙に気恥ずかしくなってきた。
 だって、私の理想の筋肉がついた胸板や、腕が目の前にあるんだよ? 今までの私、どうしてこれを平気な顔で眺めていたんだろう。

「も、もういい」

 目をそらして彼にシャツを返すと、反応の違いに気づいたのか、レオが意地悪な顔で笑った。

「どうした。見たいんじゃなかったのか。存分に見ていいんだぞ」

「もういい」

「なに今更恥ずかしがってるんだ」

「だって。なににも書かれてない裸見てるのって、裸見るのが目的みたいじゃない!」

「見たくないのか」

「恥ずかしいよ」

 私がそう言うと、レオもクロードも笑い出す。

「おまえに、まともな神経が残っていたようでよかったよ」

 散々な言い草である。まあ反論はできなかったが。

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