小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「そういえば、レオ、いつの間にか女の人に触れるようになったんだね」

 さっき、お盆を受け取るときに侍女が触れるほどの距離にいたけれど、顔を歪めることもなかった。

「ああ。すっかりな」

「腕の呪文が消えたから?」

「いや、クロードが調べたところによると、腕の呪文は魔法陣を描くためのもので、魔法陣は悪魔を呼び出すための召喚魔法らしい。女性嫌いは単純に俺の精神的トラウマだったようだ」

「じゃあどうして治ったんだろ」

「おまえが上書きしてくれたからじゃないか?」

 そこから、レオは今まであまり詳細に語ることのなかった昔の心情を教えてくれた。

 八歳で監禁されたとき、狂気の表情で針を刺すジェナ様が恐ろしくて仕方なかったのだそうだ。助け出された後も、女性が近づいてくるとジェナ様の顔が頭にちらついたそうだ。だけど、私がレオの胸に針を刺していたとき、脳裏に浮かぶジェナ様の顔が、やがて私の顔に変わっていったらしい。

「おまえが泣きながら針を刺している姿は、恐怖からは程遠かったからな。ひたむきでいじらしくて。……俺は抱きしめたくて仕方なかった」

 それで、彼の心を支配していた恐怖が消えたような気がしたのだという。

 どうでもいいけど、そんな話、真顔では聞いていられない。恥ずかしい。
 呪いが解けてからこっち、レオは愛情表現をあらわにしすぎだ。

「ほら次、口、開けろ」

「ん」

 おいしいけれど、王太子様にこんなことさせてると思ったら全然落ち着かない。

「……そろそろひとりで食べるよ」

「嫌だ。こんなこと、今じゃなきゃできないし」

「へ?」

「おまえがじっとしているのなんて、傷が塞がるまでだろう」

 そう言われればたしかにそうだ。じっとしているのは性に合わないんだよ。早く元気になって走り回りたい。
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