小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 結局なんだかんだと言いくるめられて、食事を終える。やはり王城の料理人は素晴らしい。うちの料理人も上手だけど、ワンランク上の味だ。

「そうそう、おまえに、渡すものがあるんだ」

「え?」

「あの日は突っ返されたが、今ならもらってくれるだろう?」

 レオの胸ポケットから取り出されたのは、婚約破棄を申し出た日に見せられた紫水晶と真珠で作られたブドウ型のかわいいペンダントトップが付いたネックレスだ。

「これ……」

「突っ返されたときはショックだったがな」

 レオは中腰になり、私にそれをつけてくれた。鎖骨の間で、小さく揺れるブドウがかわいい。
 最近のご婦人たちに人気があるデザインは、肌にぴたりと張り付くような平面のデザインなので、日本で見るようなこのデザインはここでは珍しい。

「綺麗ね。それにこの水晶、レオの瞳の色みたい」

「それと、改めておまえに伝えておくことがある」

 おもむろにレオが咳ばらいをした。大事なことを言われる空気に、私も思わず背筋を伸ばす。

「リンネ・エバンズ」

「はい!」

 引き締まった口もと、真摯に私を見つめてくる紫水晶のような瞳。
 頬のあたりに熱を感じる。前から顔はいいなと思っていたけれど、気持ちを自覚してからは、見ているだけでドキドキしてしまうようになった。最近のレオは眩しすぎる。

「俺はおまえを愛している。幼いころから、ずっとだ。他の女に目移りしたことなど、一度もない。俺には、おまえしかいないんだ。……だから、婚約は破棄しない。おまえがクロードを好きでも、おまえを手放したくないんだ……!」

 まっすぐな愛情表現が、痛いくらいに突き刺さる。もう私を殺す気ですか。
 それにしても、ひとつ引っかかることがあるんだけど……。

「……え、っと。私、別にクロードを好きなわけじゃないけど」

「は? だって婚約破棄したいって……」

「あれは、レオを救うには私がいちゃ駄目だって思ったからで……。クロードはお兄ちゃんみたいなもんだよ」

 さらりと言ったら、レオは力が抜けたように座り込んだ。
 頭を抱えて、はあと大きな息をつく。

< 165 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop