小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

「でも邪魔したらクロードに怒られるもん」

「怒らないよ。クロード様だってリンネには甘いじゃん」

 私には……というけれど、クロードはたいがいの人に温和で優しいはずだ。言えばある程度の融通は効かせてくれるし、そんなに容赦のないことはしないはず。

「もしかして……ローレン、何度か逃げ出してない?」

「えっ?」

 ギクリと顔に書いてある。ローレンは思い当たることがあるのか、さりげなく目をそらした。

「ちょ、ちょーっとだけ? だって根を詰めたら疲れるじゃない。ちょっとくらいの気晴らしは許されると思うの。抜け出して城内散歩したくらいだよ」

「ちょっとってどのくらい?」

「二時間くらい。……でも仕方なくない? 王妃様と出会っちゃってお茶に誘われたんだよ? 断れるわけないでしょう」

「王妃様か……ずいぶん大物を捕まえたんだね。まあでも、原因はそれじゃない? クロードって、不真面目には容赦ないところあるから」

『逃げる余裕があるなら、まだまだ課題を増やせそうだね』と笑うクロードが目に浮かぶ。
もちろん、笑っていても、顔は怒りで引くついているはずだ。

 ローレンはぐうの音も出ないのか、頬を膨らませてそっぽを向いた。

「とにかくっ! これ以上課題を増やらされるくらいなら、もう城にも行かない! リンネが一緒に来ないなら、ぜーったいに行かないから!」


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