小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「ローレンは普段どんなことをしているの?」

「回復魔法を自由に使えるように練習してるの。私は魔力が強くて、巫女姫の血筋でもあるから呪文なしでも魔法を使えるんだよ。ほら、リンネに使ったときみたいに。だけど、あれって要は火事場の馬鹿力みたいなもので、コントロールはできていないの。だから、目の前にけが人がいても、治せないときもある」

「へぇ」

 じゃあ、ローレンにとって私は助けたいくらい大事だったってことかな。そう思ったらちょっとうれしい。

「呪文を覚えれば、もっと安定して魔法が使えるようになるんだって。だから、覚えろって。これを……」

 笑顔をひきつらせた彼女は、机にのせられていた分厚い魔導書をポンと叩く。まさか、これを全部覚えろと言われているのだろうか。琉菜時代も含めて、真面目とは程遠い琉菜には地獄のようだな。

「そうだね。分かっているんじゃないか。自由に使えるように、毎日コツコツと訓練することが重要だって言っているんだよ? ローレン嬢」

 にこやかな中に、怒りをにじませたクロードの声。これはたしかに怖い。ローレンじゃなくてもビビるわ。

「でも毎日だと疲れるんですよ。気分によるんだから、ここまで気分低下したらどんどん使えなくなるって思いませんか? 楽しみがないと無理です。もっと私に癒しをください」

 あの状態のクロードにここまで立ち向かっていく人間も珍しい。感心しながらふたりの攻防を見つめていたら、クロードが、ふむ、と考え込んだ。

「君の楽しみって……コレだろう?」

 クロードはちらりとノートを見た。クロードにも知られているのか、あのノート。
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