小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「ええ。この続きを書くべく、しばらく観察時間をいただきたいです」

「ふむ。……まあいいだろう。じゃあちょっと出てくるから、その間に。でも、ここまでは覚えておくようにね」

 私には内容の分からない話が続き、その後、クロードはいったん席を外した。

「……課題は置いていくのね。ああもう、顔はいいのに鬼畜だわ、クロード様」

 ローレンは、分厚い魔術書を前に、グチグチ文句を言っている。

「まあまあ。ひとりでやってて飽きちゃうなら、一緒に読もうよ。私も復唱する!」

「それ、リンネに何のメリットあるのよ」

「ローレンが元気になればそれでいいじゃん」

 しばらくの沈黙のあと、ローレンは私から見てもかわいらしい顔でふっと笑った。

「……全く、リンネはこれだから。ねぇ、レオ様?」

「ん?」

 レオはレオで、私の髪に指に巻き付けて遊んでいた。

「なにしてるの、レオ」

「話の邪魔はしない。気にするな」

 いや気になるよ。一体、レオは何しに来たの。クロードじゃないけれど、そろそろ仕事に戻ればいいと思う。

 やがて、ところでさ、とローレンが顔をあげた。

「リンネはなんか準備してる? 卒業したらレオ様と結婚するんでしょ?」

 突然の爆弾発言に、私の髪をいじっていたレオの手がピクリと動く。私も思わずむせてしまった。

「ゴホッ。なに、いきなり。なんで?」

 婚約者と言いながら、実は結婚に関する話はひとつも進んではいない。
 前世の記憶が色濃く残る私としては、十七歳で結婚はさすがに早すぎる気がしているのだ。レオが強く言ってこないのをこれ幸いと、のらりくらりとかわしている。
 個人的には、二十歳くらいまでこのままごまかす気なんだけど。

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