小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 見ると、ローレンの方も着替えが終わっていた。
 今日のローレンははちみつ色のドレスだ。燃えるように赤い髪に対して、柔らかな印象を与えるドレス。エメラルドのネックレスが、暖色でまとめられた彼女の装いを引き締めている。

「ローレン、綺麗」

「ありがとう。リンネも素敵よ」

 あとはレオが迎えに来てくれるのを待つばかりだ。私とローレンは、ダンスの動きを復習しながら待っていた。

 夜会開始ギリギリになって、レオが礼服姿で迎えに来てくれる。忙しかったのか髪が少し乱れていて、それが無駄にかっこいい。
 私、完璧に全部整っているより、少し抜けがあったほうが好きなんだよなぁ。とはいえ、それを他の女の子に見せる必要もないので直してしまおう。

「レオ、髪が」

「ああ。ありがとう」

 されるがままになっていたレオは、直し終わった私の手を掴み、手の甲に軽くキスをする。私も真っ赤になったけれど、うしろに控える侍女さんたちのほうがきゃああとうるさい。
 なんか、今日のレオは妙に積極的だな。破壊力上がって困るんだけど。

「それ、つけてくれているんだな」

 レオにもらった紫水晶のネックレス。普段、装飾品をつけるような格好をしないので、レオ自身も久しぶりに見るだろう。

「似合う?」

「ああ。だが、こっちの髪飾りはどうしたんだ? あまり見ないものだが」

「これはこの間買い物に行って、ローレンがくれたの」

「ローレン嬢が?」

「似合う?」

 レオは何か引っかかっているようだったけれど、私がそう言うと、困ったように「似合うよ」と笑った。
 あんまり似合ってないのかな。レオは優しいから、気を使ってそう言ってくれただけなのかもしれない。

「レオ様、リンネだけじゃなく私も褒めてくださいよ」

 そこへ、恨みがましい様子でローレンがくる。

「ああ。ローレン嬢。いたのか。……似合っているぞ」

「適当だなぁ。もう少し感動的に言えないんですか」

 いつの間にかすっかり打ち解けて離せるようになったふたりをほのぼのと見ていたら、背中に影が差した。
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