小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
冗談かと思っていた婚約話は、さっそくその夜に父親からもたらされた。
「よくやったリンネ。王太子殿下、たっての御望みだそうだ。陛下も喜んでくれて、すぐにでも婚約を整えようとおっしゃっている」
「やっぱりあの話、本気なのです?」
「そうだ、リンネ。なにを驚いている。当然だろう。八年間、おまえは殿下と交流し、愛を育んできたのではなかったのか」
育んできたのは友情だと思う。それに、私はずっとレオを弟のように思ってきた。レオを守ってあげたいという気持ちはあるけれど、これって、恋愛よりは家族愛に近しい気がする。
「私達の間にあるのは、愛ではないと思います、お父様。レオも同じですよ」
「なにを言っているんだ。殿下がぜひにとおっしゃったらしいぞ。あれほど嫌がっておられた学園への復学も、リンネが婚約者として傍にいてくれるならば頑張れるとな」
「それは、他の令嬢から逃げたいからですよ」
あの後、『なぜ婚約?』と問いかけた私に、レオはそう言った。
城でご夫人たちに囲まれるように、学園に行けば女生徒に群がられる。レオはそれが嫌なのだそうだ。
直接触ってくるほど図々しい人間はいないと信じたいが、学園という子供だけの空間であることで、令嬢たちにも甘えが生まれる。多少、距離が近くなってしまうのはやむをえない。それに、王子という立場上、女性にばかりつれなくするわけにもいかないのだという。
それでも、婚約者が同じ校内にいれば話は別だ。レオは私を盾にして、令嬢の誘いを断ることができるし、触られたくない言い訳もできる。
『つまり、レオは女よけのために私と婚約しておきたいんだね』と言ったら、バツの悪そうな顔で頷かれた。