小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「……リンネ。おまえは食べるのが好きなんだろ?」

「うん。おいしいものはなんでも好き。デザートも好きだよ」

「じゃあやっぱり、おまえは俺と婚約すればいいんじゃないか。俺といればたいがいうまい料理が食えるだろう?」

「まあそうだね。でも……」

 さすがにそれを目的として結婚するのはいかがなものかと思うけど。

「それに言っただろ。俺は学園に行くなら、令嬢から逃げるための建前が欲しい」

 それは納得してはいる。だけど。

「でも、昨日帰ってから気づいたんだけど、私と婚約したら、レオが他の令嬢と出会う機会がなくなっちゃうよね」

 学園に通うメイン目的は友情をはぐくむ方かもしれないけれど、本来、レオの年齢ならば恋愛方面だって重要なはずだ。

「触れもしない女を好きになれるわけないだろう」

「それはそうだけど、もしかしたら、私以外にもレオに触れる女の子と出会えるかもしれないよ」

 そうなったときに、私が邪魔をするんじゃ申し訳ないなとは思う。

「あり得ないことまで気にするな。それ以外に懸念事項があるならば今言え」

「もし私に、他に好きな人ができたらどうしよう」

 レオの眉間に皺が寄った。なんか怒ってる? さすがに婚約者になる人に言うことじゃなかったのか?

「気になるやつでもいるのか?」

「ううん。全然? でも可能性はないわけじゃないでしょう?」

 レオは深々とため息をつく。

「……もしおまえに本気で好きな奴ができたら、その時は俺の方から解消手続きをとってやる。これならいいか」

「うん!」

 それならば、安心だ。レオに好きな子ができて、私に遠慮して婚約解消できなくなったときは、この約束を盾に解消を迫ることができる。
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