小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「他には?」

 レオがじっとこちらを見ている。

「もうないよ」とへらりと笑って答えたら、彼は私の手をギュッと握って額を押し付けた。

「……ありがとう」

「え、ちょ、頭上げてよ」

 あまりに真剣に言われて、びっくりした。

 そんなに切羽つまっていたとは知らなかった。かわいそうに。婚約者のふりくらい、嫌がらず務めてあげなきゃと誓いを新たにする。

 視線を感じて振り向くと、お父様が、私とレオが親密に話しているのをうれしそうに眺めている。

「いやはや、ふたりはすっかり打ち解けているのですな」

 にやにやと冷やかす様子に、ぶんなぐってやりたくい気持ちにはなったが、レオの前なのでやめておくことにする。



 そんなわけで、レオの学園への編入が決まった。

 私の一学年上になるから、そんなに接点はないけれど、まあ学園生活は私の方が長いし、精いっぱいお世話してあげようと思う。

 ただ、これまで学校に通う代わりにと行われていた午後の勉強時間は無くなるので、私が城に行くことはほとんどなくなった。クロードに会う機会が減ったのはちょっと残念だ。

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