小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「ちょっとお聞きになりました? 私たちの学年にも転入生がいらっしゃるのですって」
ポーリーナ嬢が他の女生徒に話しかけているのが、私の耳にも届いた。
今日はレオの編入の日だ。王太子が来るとあって、数日前から学園は盛り上がっていた。そこに突如として舞い込んだ新情報だ。やれ、転入者は男か、女かと男子生徒による予想立てが始まった。まあ、言葉がお上品だから、下世話な感じはあまり受けないけれど。
転入生の紹介は学園の生徒全員が集められた講堂で行われる。
壇上に上がったのはレオとひとりの令嬢で、賭けでもしていたのか、男子生徒の数人が目配せしてひとりは喜び、ひとりは嘆いている。
その令嬢はとてもきれいな子だった。見事な腰までの赤毛に、健康そうに赤く染まった頬。ぱっちりとした琥珀色の瞳がクルクルと辺りを見回している。
「ローレン・レットラップです。どうぞよろしくお願いいたします」
同級生たちの噂話に耳を傾けると、レットラップ子爵は貿易事業を行っていて、珍しい交易品を入手してくることで有名なのだという。彼はこの度王都で商館を開き、家族も王都に呼び寄せたので、ローレンは子爵の自領から王都住まいになったのだそう。
私も、子爵の名前をどこかで聞いたことがあるような気がするのだけど、少し考えても思い出せなかった。