小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「王子殿下と同じタイミングでの転入なんて、なんて素晴らしい偶然でしょう。これも神の思し召しですわね」

 壇上でも、王太子という権力者が側にいても、物怖じすることなくローレンは言った。なかなか肝の据わったお嬢さんのようだ。

 ローレンがにっこり微笑み、レオに向かって手を差し伸べる。握手を求めているのは分かるが、身分の低い人間が先にその動作をするのは少し意外な気がした。すでに顔色を失っているレオは、その手には目もくれず、「よろしく」とだけ言ってすぐに壇上を下りてしまった。触れてはいないはずなのに、隣に立っているだけで体調が悪くなるなんて気の毒だ。

 そのあとは、学年ごとの講義だ。基本王都に住む貴族の子供しか通っていないので、一学年には一クラス分の人数しかいない。学年が同じであれば、一緒の授業を受ける。

 体調の悪そうなレオが心配だったので、講堂から教室に戻る間に少し探してみたけれど、見つけることができなかった。応援くらいしてあげたかったのに。

 仕方なく教室に戻ると、すでに女生徒たちがローレンを囲んでいた。転入生がもてはやされるのは、どの世界でも変わらないのだなぁと、凛音時代を思い出して懐かしく感じる。

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