小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 庭園は広かった。庭に鏡なんてないだろうから建物の中に入りたいのだが、しばらく歩き回っても、庭園の出口を見つけられない。困り果ててあたりを見渡していると、予想外なものを見つけた。

 人だ。タチアオイに似た背の高い花の隙間から、アッシュブラウンの髪が見える。
 近づいてみれば、それは小柄な男の子だった。

 うわー、かわいい。何歳くらいだろ。小学生低学年くらいかな。

 この世界に小学生という概念はないだろうが、記憶の大半が凛音のものなので、そういう例えしか思いつかない。
 まじまじと見ていたら、視線に気づいたのか、少年がびくりと体を震わせた。ひどく驚いたような顔で凝視される。

「あの……」

「近づくな!」

 少年は、かわいらしい見た目とは真逆の鋭い声を出し、怯えたように私を睨んだ。

「来るな! 見るな! どっかに行け!」

 いきなりの冷たいセリフにムカッとする。
 でも待って、落ち着くのよ凛音。子供の言うことじゃないの。
 きっと構われたくないんだ。そういう年頃ってあるよね。邪魔するのはやめよう。

「邪魔したみたいで、ごめんね」

 そう言って立ち去ろうとしたとき、「レオ様―!」と、数人の男たちの声が遠くから響いてきた。
 すると、少年はさっきよりも体をびくつかせ、花壇から飛び出したかと思うと、体を屈めたまま逃げようとした。

 でも、遅い。こんなボテボテ走りじゃ、すぐ捕まるとしか思えなかった。

 男たちの声は近づいてくる。
 それでも大して移動していない少年を見るとヤキモキしてしまう。

 他人のことだし、放っておけばいいんだろうけど。必死そうに逃げているところを見ると、かくれんぼとかではないんだよね。こんな子供が大人から逃げる理由なんて……勉強が嫌で逃げだしたくらいしか思いつかないけど。
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