小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「逃げてるの?」
「なっ、なんだよ。まだいたのかよ」
走って後を追ったらすぐ追いついてしまった。
少年はぎょっとしたように私を見て、虫でも払うように手を振りかざしたけど、動きが遅いので簡単によけられた。
紫に光る瞳が、紫水晶を思い起こさせる。とてもきれいだし、珍しい色だ。
「ふむ……」
さっきから失礼だから、この少年自体にはイラつくけれど、勉強から逃げたい気持ちは分かる。手伝ってあげるのもやぶさかじゃない。
少年は寝間着のようなひざ下までの長さのTシャツの上にマントを羽織っていた。
「ね。私が囮になってあげる。脱いでその服」
「は? なに……」
「いいから、早く」
言うが早いか、私は自分のドレスを脱ぎ捨てる。脱ぎ方なんかよくわからなかったが、首のあたりのボタンを開け、後は首をくぐらせて下から抜け出した。
ちゃんと下着は着ているし、子供に見せたところで……と思っていたのだけど、少年は私を見て真っ赤になっている。
「なっ、おまえっ、なにしてんだよ!」
「ほら早く。男のくせに恥ずかしがってんじゃないわよ」
襟を掴み、彼のマントを脱がす。そのとき、左の二の腕に十センチくらいの落書きが見えたが、急いでいたので気にしないことにした。子供が体に落書きすることはよくある。
マントだけだとすぐはだけそうだなと思った私は、無理やりTシャツも奪い取ることにした。
「それも貸しなさいよ。レディの下着が見えちゃうでしょ」
「はぁ? レディ?」