小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 呆気にとられる少年を無視して、私はさっそく奪い取った服を着こみ、少年に自分のドレスを頭から被せる。

「これでオッケー! しばらく引き付けておくから、その間に逃げるといいわ」

 髪色でバレないように頭にマントを被せて、私はわざと声のする方へ姿を見せた。

「あ、いたぞ。レオ様だ!」

 声が近づいてくる。どうやら、うまく勘違いしてくれたみたいだ。

 追ってくる相手は大人のようだが、小回りが利く分、入り組んだつくりの庭園にいる間はこちらが有利だ。私は花壇の間を駆けていく。

 なんといっても私は県大会優勝の実力の持ち主だ。大人とはいえ簡単に撒けるはず……と思っていたけれど、予想外に足がうまく動かず、次第に動きが鈍り、もつれてきた。

 おかしいな。いつもなら、もっと早く足が前に出るのに、ひと呼吸分くらいは遅い。

「はあっ、はっ、はっ……」

 それにすぐに息が切れる。私がこんなにすぐバテるはずないのに。
 汗を拭こうと手を額にかざして、その小さな手に、あ、と気づく。
 そうか。今は私であって私じゃない……

 気づいたときには遅すぎた。心臓は爆発しそうなほど鼓動を打ち、呼吸は荒く、目の前は真っ暗になる。

 やばい、呼吸困難……。

 そのまま、私の体は地面に転がり、意識が遠ざかっていった。

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