小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 雲の中にでもいるのかと思うくらいに、ふわふわとした感覚が体を包んでいた。クッションが柔らかすぎて、寝返りを打とうとして動けず、意味不明な動きでもがいてしまった。

「ああ、目覚められましたか?」

 よく通るテノールが響く。薄目を開けて、私は自分がベッドに寝かされていることに気づいた。

 のぞき込んできたのは、明るいイエローブラウンの髪の、美少年だった。大人とは言い切れないけど、子供でもない、そんな年齢に見える。少したれ目気味だが整った顔だ。将来が楽しみ。……って、違う違う、そうじゃなくて。

「……誰?」

「私はクロード・オールブライトです。初めまして、リンネ・エバンズ伯爵令嬢。以後お見知りおきを」

 あまりにも丁寧なあいさつに、私は我に返った。そうだ、今の私はリンネであって凛音じゃない。

「えっと私……」

 起き上がると、はらりと毛布がはだける。上半身だけだが下着姿がさらされて、クロードは直ぐに背中を向けた。

「失礼。眠るのにドレスは苦しいでしょうと、着せていないのです。今侍女を呼びますから、支度を整えてください」

「はあ」

 よくよく見ると、部屋にはクロードの他に先ほどの少年、そして三十代くらいのおじさんがいる。じっと見ていると記憶がポンと飛び出してくる。ああこの人、お父様だ。

 怒ったように眉を寄せ、「心配したのだからな、リンネ」とじろりと睨んでくる。

「そう言わないでください。エバンズ伯爵。お嬢様のおかげで、こうしてレオも無事に見つかりましたし」

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