小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 クロードに見せたら、余計に心配かけそうで、バレないようにそっぽを向くと、クロードはお兄ちゃんらしい優しい仕草で、私の頭を軽く叩く。

「いい子だね。リンネ」

「……クロード」

「君は優しい子だ。……そうだね。僕も一度だけ弱音を吐いてもいいかな」

 涙をこらえているような、そんな声。
 クロードがレオを支えるために何年も費やしていたのを、私は知っている。
 兄のような立場の彼は、きっとレオに対して弱音を吐くことなどできなかっただろう。

 私は立ち止まって、彼を廊下の端へと引っ張った。

 城には使用人がたくさんいて、全く誰にも見られないというのは不可能だ。せめて目立たないようにと思い、私の方が廊下側に立つ。まあ、身長のせいで、クロードを隠しきることはできないんだけど。

 それに気づいたのか、クロードはこらえきれなくなったように笑い出した。

「……ぶっ、や、リンネは本当におもしろいね」

「なっ、なによ、もうっ。弱音言いたいんでしょ? ほら、早く言って!」

 顔が熱い。きっと赤くなっている。ああもう、どうして私はこうスマートじゃないんだ。
 クロードは私の頭を撫でながら、笑っている。

「本当に、……君がいるから僕らは救われてる。……ありがとう」

 最後のほうは涙声に聞こえた。
 クロードだって私達よりは年上だったとはいえ、レオの面倒を見続けるには子どもだったはずだ。大きな傷を抱えるレオを支えるのは、大変だったに違いない。

「助けたいのにその方法が分からない。手探りで探していいても、成果は微々たるものだ。……もどかしいし、情けないんだよ」

 そんなことない。クロードは頑張ってる。
 そう思うけど、きっと今は、そう言われたいわけじゃないんだろうな。

「私も情けない。なんにもできないもん」

「リンネはいるだけでレオを救ってるよ」

「……クロードもでしょ」

 私たちは、たぶん、力の足りない自分たちを持て余しているのだ。
 だから、それを言葉にしたことで、少しだけ救われたような気持ちになっている。

「それでも、諦めたくないからね。頑張らないと」

 クロードはしばらく涙をこらえるようにじっとしていたけれど、やがて吹っ切れたように顔を上げ、前向きなひと言をくれた。
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