小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
* * *

 湯あみを終え、あとは寝るばかりの状態で部屋にいると、ノックの音がした。

「入れよ」

 姿を見せたのは、予想通りクロードだ。

「案外、落ち着いてるね。レオ」

 クロードは苦笑しながら室内に入ってきて、俺の私室に備え付けられているソファへと腰を下ろした。

「なんの用だ?」

「様子を見に来たんだよ。リンネの発言について、君がどう思っているかも聞きたかったし」

 俺は、クロードの向かいに腰を下ろした。

「……悪魔に殺されるとかいうやつか? さすがに驚いたが、あの魔法陣が描かれ始めたときから、そう遠くないうちに死ぬのだろうとは思っていた。だから別にショックはないな」

「そう」

 むしろ、クロードのほうが疲れた顔をしている。
 彼は長いまつげを伏せ、言葉を捜しているかのようにしばらくの間黙っていた。

 俺自身は、自分のことだからか、割と冷静に受け止められた。
 この呪文が、おもむろに成長を始めたのは三年前。最初は線が伸びだしただけだったが、胸のあたりまで伸びたとき、今度は円を描き始めた。

 クロードと一緒に魔導書を調べ、これが魔法陣を描くのではないかという結論に行きついたのは、二年前だ。

 魔導書によれば、魔法陣とは本来は場に描かれ、召喚魔法に使われるものらしい。なにかを呼び出すときや、逆になにかを転移させるときなどに使われるそうだ。

 俺の胸の上に描かれ始めたことから、俺は心臓をどこかに転移させるのではないかと思っていた。
 とはいえ、現実に対応策はない。どんな施術法をもってしても、描かれた呪文を消すことはできなかった。発動した呪いを止める術はない。
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