花野くんの溺愛は密室で。
「今日甘えんぼうだね」
「そんなことないし」

「じゃあ手離していい?」



自分の胸から私の顔を離して上を向かせて、優しさの欠片もない笑みを浮かべて、私を見てくる。私は「ダメ」とつぶやいてふたたび彼の胸に顔を埋めた。


彼の思いどおりに動いているとわかっていながらもやめられない私と、私がやめられないのもわかっていてからかってくる花野くん、タチが悪いのは絶対絶対花野くんだと思う。




「かわいい」
「そんなことないもん」

「なんか今日当たり強い?気のせい?」
「わかんない」



ちょっとバカにしたように笑った花野くんは、「どうしたの」と私に問う。

彼が近づくと柔軟剤の香りが私の鼻をかすめて胸が鳴るし、意地悪な笑みでも向けられるだけで胸が鳴るし、彼は本当にずるい人だ。
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