乳房星(たらちねぼし)・ドラマノベル版

【私たちの望むものは】

(カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

はちろうがケーサツに逮捕されてから8時間後の夜9時頃であった。

場所は、松山市小坂の住宅地にて…

ゆりこは、この地区にあるセキスイハイムのアパートで暮らしている。

住宅地の付近を走るいよてつ横河原線の電車がゆっくりとした速度でいよ立花駅へ向かう。

この時、バイト帰りのけんちゃんが付近を歩いていた。

そこでけんちゃんは、ガスくさいにおいを感知した。

このガスくさいにおいは…

ゆりこちゃんが暮らしているアパートからではないのか…

より強い不安に襲われたけんちゃんは、大急ぎでアパートへ向かう。

ところ変わって、ゆりこが暮らしているセキスイハイムのアパートにて…

ゆりこが暮らしている1階の部屋に着いたけんちゃんは、コブシでドアをたたきながら中にいるゆりこに呼びかけた。

(ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!)

「ゆりこちゃん!!ゆりこちゃん!!」

けんちゃんが大声で呼びかけたが、反応がまったくない。

けんちゃんは、ドアノブに手をかけて回してみた。

(ガチャ…)

うそ…

カギがあいてる…

そして次の瞬間…

「うう…クセー…」

ドアが開いたのと同時に、部屋中にジュウマンしているガスのにおいが放出された。

けんちゃんは、ハンカチで口を押さえながら部屋に突入した。

ゆりこが四畳半の居間で倒れていた。

「ゆりこちゃん!!ゆりこちゃん!!」

けんちゃんは、ガス中毒を起こして倒れたゆりこを大急ぎで外に運び出したあと、キンリンの住民に助けを求めた。

ゆりこは、救急車で松山市美沢の記念病院に搬送された。

ゆりこは、一酸化炭素中毒で数時間意識不明の状態におちいったあと、一命を取り留めた。

しかし、胎内の赤ちゃんは命を堕とした(おとした)。

けんちゃんは、ゆりこが書いた手紙数通を読んでみた。

その中で、10月3日に宍喰(ししくい・徳島県海陽町)の竹ヶ島でゆりことカレが海に転落して、尾鷲市まで流された事件の原因が明らかになった。

それによると、ゆりこの胎内の子の父親がはちろうであったこと…はちろうとはハートマーケット(テレクラ)で知り合った…はちろうはユウジュウフダンなので、ゆりこに気持ちを伝えることができない…だから、知人のホストの男(ゆりこが逆ナンで知り合った男だった)に頼んだ…

…と記されていた。

文章の最後に、ゆりことはちろうは肉体関係のみであって、結婚する気は全くないと記されていた…

つづいて、てつろうさんにあてた遺書を読んでみた。

てつろうさんにあてた遺書は、うらみの文章がつづられていた。

てつろうさんは、ゆりこに対して『研究の成果が世に認められて表彰されたらゆりこを迎えに行く。』とプロポーズした。

けど、表彰された翌日から超多忙になったのでゆりこと会うことができんかった。

最後に『てつろうさんのせいで汚い女になった…てつろうさんのせいでゆりこの人生はズタズタになった…』と記されていた。

もう1枚の遺書には、多賀家の家族に対するうらみがつづられていた。

政子六郎夫婦と3組の兄夫婦の家族とあつろうと和子がズタズタに傷つく文章が並んでいた。

しかし、たつろうさんについては記載されていなかった。

(これ、どういうことやねん…)

最後に、けんちゃんあてに書かれた手紙にはこうつづられていた。

けんちゃんにお似合いのいい人がみつかるといいわね…

ただそれだけであった。

なんやねんコレは一体…

けんちゃんは、今まで経験したことのない虚空感に襲われた。

ゆりこは、今回の一件で多賀家に多大な損害を与えた罰としてあつろうとお見合いをして結婚することになった。

その一方で、すみれさんは裕介夫婦にけんちゃんと結婚できませんと一方的に断ったあと、仕事をやめて松山から出てよそへ移った。

けんちゃんは、ゆりこをまだ愛しているのでこの先結婚できる見込みはなくなった。
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