乳房星(たらちねぼし)・ドラマノベル版
第12話・ブルージーンズメモリー

【ブルージーンズメモリー】

それからまた時は流れて…

2000年4月29日の未明頃であった。

場所は、今治市恵美須町3丁目の安アパートにて…

ダイニングテーブルでてつろうの帰宅を待っているゆりこは、イライラしていた。

テーブルの上には、てつろうのお誕生日のお祝いの料理が並んでいる。

深夜1時20分頃、てつろうがものすごくつかれた表情で帰宅した。

「ハア~、つかれた…」

背中を向けた状態のゆりこは、ひねた声でてつろうに言うた。

「あんたなに考えとんで…今、何時なのか時計みてよ!!」

ゆりこに怒鳴られたてつろうは、つらそうな声でゆりこに言うた。

「オレ、しんどいねん…そないにおらぶなよぉ~」
「おらびたくもなるわよ!!」
「おいゆりこ…どないしたんで?」
「ゆりこがなんで怒っとんかが分かってへんみたいね!!」
「オレにどなな落ち度があるんぞぉ~」
「落ち度があるから怒っとんよ!!」

(ビュー、ごつーん!!)

ゆりこは、テーブルの上に置かれていた味の素(化学調味料)の小びんをてつろうに投げた。

小びんは、てつろうの胸に直撃した。

「いたい…なにするんだよぅ~」
「やかましい浪費魔!!」
「浪費魔…オレのことそこまで言うのかよぉ~」
「ええ、その通りよ!!今日、ゆりこの口座に振り込まれる予定のお給料が4000円しかなかったのよ!!手取りで9万7000円のお給料がなんで4000円なのよ!!」

ゆりこの問いに対して、てつろうはなさけない声で言うた。

「ゆりこ…オレが浪費したから減ったんじゃないのだよぅ~」
「ウソつくな!!」
「ウソじゃないのだよぅ~大学の恩師から(大学の)総長のワガママにこたえてくれと言われたんだよぅ~ああ!!」

(ベチョ!!)

ゆりこは、なさけない声でいいわけを言うたてつろうの顔にバースデーケーキをたたきつけた。

ケーキまみれの顔のてつろうは、なんでひどいことをするのかとゆりこに言うた。

「ゆりこ…分かってくれよぅ~」
「はぐいたらしいわね!!ゆりこになにを分かれと言いたいのよ!?」
「オレは、大学の研究所に行きたいのだよぅ~」
「やかましい浪費魔!!お酒をのむこととマージャン打つこととフーゾクでやらしい遊びをすることがお仕事だというたわね!!」
「ゆりこ、総長に気に入られないと大学の研究所に行けないのだよぅ~ああ!!」

(ドカドカドカドカドカドカ!!ガシャーン!!)

怒り狂ったゆりこは、テーブルの上に置かれていた料理をてつろうに投げつけたあと、平手打ちでてつろうの顔を10回叩いて、背中を向けた。

てつろうは、なさけない声でゆりこに言うた。

「ゆりこ…なあ、ゆりこ~」
「甘えないでよ!!あんたのお人よしの性格はリョーシンソックリね!!」

イスから立ち上がったゆりこは、冷蔵庫の中からアサヒスーパードライの500ミリリットル缶2つを取りだした。

つづいて、戸棚からカルビーポテトチップスの大きめの袋を取りだした。

再びイスに座ったゆりこは、缶ビールを一気にゴクゴクのんで、ポテトチップスをバリバリ食べていた。

ゆりこにボコボコにやられたてつろうは、声を震わせて泣いた。

「ゆりこ…信じてくれよぅ~…うううう…総長に気に入られないと大学の研究所に行けんのや…もう一度…大学の研究所で研究したいよぅ~…ゆりこはオレに研究所へ行ってほしいとは思わないのかよぅ~」

てつろうに背中を向けているゆりこは『あんた女々しいわよ…』とつぶやきながらポテトチップスを食べていた。

時は、朝7時半頃であった。

ところ変わって、尾鷲市のたつろうさんの実家にて…

大広間に3・5世帯の大家族が集まって朝ごはんを食べていたが、食卓の雰囲気はどす黒く淀んでいた。

逸郎さよこ夫婦と兼次が家出した。

兼次が3月に発生した地下鉄日比谷線の車両追突事故で亡くなった。

逸郎さよこ夫婦から連絡がないので困っている…

その時であった。

「もう食べん!!」

和子がごはんを残して食卓から出ていった。

つづいて、たけろう由芽夫婦がごはんを残して食卓から出ていった。

みつろう優香夫婦と政子もそれにつづいて食卓を出た。

ひとり残された六郎は、ボーゼンとした表情で周囲をみわたした。

それから数秒後、白ごはんにお茶をかけて茶漬けにして食べていた。
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